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札幌高等裁判所 昭和50年(ネ)167号 判決

控訴人 国

訴訟代理人 末永進 大藤孝史 ほか一名

被控訴人 三星ハイヤー株式会社

主文

一  原判決を取消す。

二  被控訴人は、控訴人に対し金二四六万一二三一円及び右金員のうち別紙一覧表の療養費欄記載の各金員に対する同表の支払期日欄記載の各支払期日の翌日から各支払済に至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

四  この判決の第二、三項は、仮に執行することができる。

事  実〈省略〉

理由

一  昭和四六年三月一六日午後一一時四〇分頃、本件交差点即ち滝川市栄町四三七番地先の交差点において、訴外平沢勝利運転の小型貨物自動車なる甲車と訴外能戸武見が運転し、訴外三上昭政を後部座席に乗車させたタクシー乙車とが衝突して本件事故が発生したこと及び三上が本件事故により広汎性脳挫傷、中枢性右片不全麻痺の傷害を負つたことは、当事者間に争いがない。

二(一)  被控訴人が本件事故発生の当時、乙車を自己のために運行の用に供していた者であること及び本件事故が乙車の運行によつて生じたものであることは当事者間に争いがない。

(二)  そこで、被控訴人の免責の抗弁について判断する。

1  〈証拠省略〉によれば、次の口及び岡の各事実が認められる。

(1) 本件交差点は、国鉄滝川駅方面から滝川市本町方面へほぼ南北に通ずる車道幅員約一三・二メートル、その両側の歩道幅員各三・四五ないし四・二メートルの平担な舗装された道々滝川停車場線と砂川市方面から滝川市西町方面へほぼ東西に通ずる車道幅員約一六・一メートル、その両側の歩道幅員各五・六ないし六・五メートルの平担な舗装された市道空知通り線とが交差する交差点であり、本件交差点付近においては、右各道路の両側には商店が軒を並べて連なり、本件交差点に進入する場合見とおしの障害となる両側の建物の間の間隔は、滝川停車場線で約二一メートル、空知通り線で約二八メートルである。本件交差点への四方の入口付近には横断歩道が設けられている。しかし、以上は、地上に積雪のないときの状況であつて本件事故発生当時は、積雪のため、滝川停車場線の車道中央部分の有効幅員は約九・四メートルしかなく、空知通り線の車道中央部分の有効幅員も約九メートルしかなく、本件交差点内の車道として有効な部分は、ほぼ右路の車道有効幅員が交差する部分だけであり(以下、単に本件交差点という場合は、本来の本件交差点ではなく、右の車道有効幅員の交差する部分のみを指すものとする。)、本件交差点付近の右各道路において、右有効幅員をなす車道部分以外の、その左右両側の車道部分には、一ないし一・五メートルの高さの積雪による雪堤があつた。そのため、滝川停車場線をタクシーで北進して来て本件交差点にさしかかつた場合、車輌先端が本件交差点に達するまでは、空知通り線上への見とおしは、右雪堤に視線を遮られて、左右ともきかなかつた。本件交差点には、信号機が設置されでいたが、本件事故発生当時には、滝川停軍場線上の信号機は黄色燈火点滅の信号を表示し(この点は当事者間に争いがない)、空知通り線上の信号機は赤色燈火点滅の信号を表示しており、従つて本件交差点は交通整理が行われていない交差点であつた。なお、本件事故発生当時は、前記各道路の車道部分路面は凍結してすべり易い状態にあつた。

(2) 能戸は、乙車を運転して国鉄滝川駅方面から滝川市本町方面に向けて滝川停車場線左側(西側)を時速約四〇キロメートルで北進して、本件交差点にさしかかり、対面する信号機が黄色燈火点滅の信号を表示しているのに気付いたので、時速約二〇キロメートル近くに減速し、さらに交差する空知通り線の信号機が赤色燈火点滅の信号を表示しているのを見やりながら、本件交差点に接近し、乙車先端が本件交差点にさしかかつた地点で一応左右を見たうえ(但し、前叙のとおり右地点においては、本件交差点東方の空知通り線上を見とおそうとしても、雪堤に視線を遮られて、見とおしはきかない状態にあつた。)、本件交差道路から本件交差点に進入しようとする車輌がないと判断するや、直ちに時速二五~六キロメートル加速して本件交差点に進入し、その直後、即ち乙車(車長約四・一メートル)の運転席(乙車の先端から、乙車ハンドルの位置までは約一・四メートルである)が本件交差点に入つた位の地点で、空知通り線東方(能戸の進行方向からみて右方向)から、本件交差点に進入して来る甲車を右斜前方約八メートルの地点(右距離の認定については、更に後述)に発見し、突嗟に急停止の措置をとつて左に転把しようとしたが、及ばず、右速度で、右甲車発見地点から約四・三メートル位直進した本件交差点中央付近で甲車前部と乙車の右側中央部とが衝突した。甲車の前部中央部が乙車に衝突した瞬間の地点をもつて衝突点とすると、該地点は、本件交差点の南側線から約四メートル本件交差点内に入つた地点であつた。他方、平沢は、本件事故当日の午後七時過ぎ頃清酒二合位を飲酒したうえ、用件があつて、同日午後九時半頃、甲車を運転し、自宅から留萌市に向けて国道一二号線を進行して来たが、車内のヒーター等によりやや酔つた感じを抱きながら走行を継続し、本件交差点手前で国道一二号線が右折しているのに気づかずにそのまま直進して右国道を外れ、右国道を走つているつもりで空知通り線上を滝川市西町方面に向つて時速約四〇キロメートルで西進して来て、本件交差点にさしかかつたが、本件交差点の対面する信号機が赤色燈火点滅の信号を表示していたのに、これに気付かず、右信号機は赤色信号を表示していて甲車が本件交差点に入るまでにはそれが青色信号に変るものと軽信して、右速度のまま本件交差点に進入し、その直後左斜前方に乙車を発見したものの、なんらの処置をとるいとまもなく、甲車先端が本件交差点に進入後、五・八メートル前進した地点で乙車に衝突した。

2(1)  原審証人能戸武見の証言中には、滝川停車場線を北進して来て本件交差点に入るときに、前判示の雪堤は本件交差道路上左右への見とおしに特に影響がなかつた旨の部分があるが、同証人の証言中には、右見とおしにつき前認定と同旨の供述部分があるのみならず、前顕その余の証拠に照らすと、前判示の雪堤が本件交差道路上左右への見とおしに特に影響はなかつた旨の同証人の右供述部分は措信できない。

(2) 前示〈証拠省略〉には、能戸武見の供述として、「はつきり覚えておりませんが、自分は甲車を約一五メートル位の距離で発見しました。」との記載があるが、乙車を運転していた能戸が甲車を発見してから、時速二五~六キロメートルで約四・三メートル直進したときに甲車と衝突し、他方甲車は時速約四〇キロメートルで直進し、その先端が本件交差点に進入した後、五・八メートル前進した地点で乙車に衝突したことは前記認定のとおりであるから、甲車、乙車の右各速度と能戸が甲車を発見してから本件衝突に至るまでに乙車の走行した距離に基づいて計算してみると(計算関係は、本項末尾に記載のとおり)、甲車は能戸が甲車を発見したときから本件衝突に至るまで約六・九メートル走行したものであつて、能戸が甲車を発見したときの甲車の先端は本件交差点入口の手前約一・一メートルの地点に迫つていたことになり、(前示1の(1)及び(2)に認定したところによれば、右地点はゆうに本来の本件交差点内に入つているものと認められる。)、また能戸が甲車を発見したときの、乙車運転席から甲車先端までの距離は、約八メートルであつたことになるので、前示〈証拠省略〉の前記供述記載の内容は真実に合致したものとは認められない。

(1) 能戸が甲車を発見してから、甲車と乙車が衝突するまでの間に、乙車が時速25キロメートルで4.3メートル進行したとすると、甲車が時速40キロメートルで、その間に進行した距離(Xメートル)は、次のとおりとなる。

40/25=X/4.3

25×X=172

X≒6.9(メートル)

(2) 能戸が甲車を発見したときの甲車先端から本件交差点東側線までの距離は、次のとおりとなる。

6.9-5.8=1.1(メートル)

(3) 能戸が甲車を発見したときの乙車運転席(本件交差点の南側線上)から甲車先端までの距離は、次のとおりとなる。

(メートル)

(3) 他に前示(1)の(2)及び(2)の認定を左右すべき証拠はない。

3(一) そこで前認定の事実関係に基いて、案ずるに、本件事故発生当時において滝川停車場線を北進して本件交差点に入る乙車のような自動車の運転者にとつて本件交差点は、道路交通法第四二条(但し昭和四六年法律第九八号による改正前のもの、以下同様とする)にいわゆる左右の見とおしのきかない交差点にあたるものであつたことは明らかであつて、右運転者にとつては、運転席が本件交差点入口近くに達するまでは、空知通り線を西進して来て、その対面する赤色燈火点滅の信号に従つて、本来の交差点(昭和四六年政令第三四八号による改正前の道路交通法施行令第二条第一項掲記の表参照)の直前で一時停止した自動車(前認定の事実関係によれば、右自動車運転者にとつても、右一時停止の位置から滝川停車場線上の左右への見とおしはきかなかつたものと推認される)や、右一時停止した後、滝川停車場線上に本件交差点に入る車輌なしと判断して本件交差点に進入せんとし、未だ本件交差点の入口近くに達していない自動車、殊に小型の自動車を発見することは困難であつたものと推認できる。しかも、本件事故発生当時本件交差点における滝川停車場線の対面信号は黄色燈火の点滅を示しており(右信号が該信号に対面して通行する歩行者及び車輌等は他の交通に注意して進行することができることを意味することは、昭和四六年政令第三四八号による改正前の道路交通法施行令第二条第二項の規定上明らかであるが、右信号に対面する自動車についていえば、右信号は、自動車運転者に対して当該信号機設置場所を進行するにあたり、当該場所における道路の広狭、優先関係、見とおしの良否、車輌または歩行者の往来状態等の諸般の事情に応じて、道路交通の安全と円滑を図る見地から課せられる交通法令上の各種義務及び運転業務上の注意義務を働らかすにつき、一層の留意を促がすことを意味するものである。最高裁第一小法廷昭和四八年九月二七日判決・裁判集刑事一九〇号三九一頁参照)本件交差点では交通整理が行われていなかつたのみならず、自動車の通行可能な車道部分は凍結していたことは前認定のとおりであつて、緊急時に自動車が急停止や急転把による危難避譲の措置を適切にはとることは困難な状況にあつたと認められる。かかる状況のもとにおいて、乙車を時速約四〇キロメートルで運転して、滝川停車場線を北進して来た能戸としては、本件交差点にさしかかり対面する信号機が黄色燈火点滅の信号を表示していたのに気付いたときに、空知通り線から車輌が本件交差点に進入してこないかどうかに注意し、万一これが進入してきたときは直ちにその場に停車できるように乙車の速度を充分に下げて、即ち少くとも時速一〇キロメートル以下位まで下げて徐行すべき注意義務があつたものというべきである。

被控訴人は、能戸が本件交差点を通過するにあたり徐行すべき義務はなかつたものであると主張するが、本件事故発生時における本件交差点の如く、交差する道路(車道)の幅員に、さしたる差がなく、左右の見とおしのきかない、交通整理の行われていない交差点を通行する車輌が該交差点を徐行すべき義務は、その対面信号が黄色燈火点滅の場合だからといつて、なくなるいわれもなければ、軽減するいわれもなく、寧つそれが強化されるべきものであることは、該信号のもつ前判示のような意味に徴しても明らかというべきである。その場合、交差道路における対面信号がどうであつたにせよ、或いは車輌運転者がたまたまそれを認識したにせよ、或いは認識しなかつたにせよ、車輌運転者の前示徐行義務に消長を来たすものではないから、被控訴人の右主張は失当である。更に、被控訴人は、能戸としては、本件交差道路から赤色燈火点滅信号を無視して本件交差点に進入してくる車輌がありうることまで予想して左右の安全を確認すべき注意義務はなかつたと主張する。能戸が本件交差点に入ろうとしたとき本件交差道路の対面信号が赤色燈火の点滅信号を表示しており、能戸はこれを見て本件交差点に進入したものであることは前認定のとおりである。思うに、交差点を通過しようとする自動車運転者が交差道路の対面信号が赤色燈火点滅信号であることを認識し、交差道路から交差点に入ろうとする車輌が右信号に従つて交差点の直前で一時停止するものと信頼して、左右の安全をさほどの注意をもつて確認せずに交差点を通過することが許される場合がないではないであろう。しかし本件事故発生時における本件交差点の状況が前判示のとおりであつた本件の場合、能戸としては、たとえ、本件交差道路における対面信号が赤色燈火点滅信号であつたとしても、本件交差点に入るにあたり、本件交差道路上の左右に対する安全を確認すべき注意義務はあつたものといわざるを得ないから、被控訴人の右主張も採ることはできない。

(2) しかして、以上判示したところによれば、乙車を運転していた能戸は本件交差点に入るにあたつての前判示の、徐行義務ないし左右の安全を確認すべき注意義務を怠り、時速約二〇キロメートル近くに減速しただけで本件交差点に達し、乙車先端が本件交差点にさしかかつた地点で邸ち本件交差道路である空知通り線への見とおしが、まだきかない地点で、一応左右を見ただけで、右道路から本件交差点に進入しようとする車輌がないものと軽信し、直ちに時速二五~六キロメートルに加速し、そのまま本件交差点に進入したため、その直後に甲車を発見したとき、乙車を急停止ないし急転把して危難を避譲するための処置を執る余裕をもてず、そのため本件事故に至つたものと認められるのであつて、本件事故発生については、能戸の右に述べた過失もその一因をなしているものと認めぎるを得ない。それゆえ、能戸が乙車の運行に関して注意を怠らなかつたものとは認められない。

4  そうすると、その余の点について判断するまでもなく、被控訴人の免責の抗弁は理由がない。

(三)  よつて被控訴人は乙車の運行供用者として、自賠法第三条により、三上が本件事故による前記負傷に基因して被つた損害につき賠償責任を負うものといわなければならない。

三  三上が前記負傷のため昭和四六年三月一七日から昭和四八年五月一六日まで砂川市立病院に入院したことは当事者間に争いがなく、昭和四八年五月一七日から同年一〇月三一日まで同病院に通院したことは〈証拠省略〉によつて認められ、右事実及び〈証拠省略〉によれば、三上は前記負傷のために、別紙一覧表の療養期間欄記載の各期間に、同療養費欄記載の各金額に相当する治療を必要とし、その合計額は金二四六万一、二三一円に達したことが認められるから、三上は本件事故により右同金額の損害を被つたものと認められ、従つて三上は、被控訴人に対して右同金額の損害賠償請求権を取得したものというべきである。

四  〈証拠省略〉によれば、三上は三等陸曹たる自衛官であり、本件事故による負傷は、公務によらない負傷であつたところから、控訴人は、防衛庁職員給与法第二二条一項の規定によつて行う療養費の給付に関する診療報酬の支払事務等を委託していた支払基金を代理人として、三上に対する前示療養の給付を担当した砂川市立病院に対し、別紙一覧表の支払期日欄記載の日に、同療養費欄記載の金額を診療報酬として支払をしたこと、その結果、三上の前示損害は全額填補されたことが認められる。

右認定の事実によれば控訴人は、防衛庁職員給与法第二二条第一項、国家公務員共済組合法第四八条第一項の規定により、三上が被控訴人に対して有していた前示損害賠償請求権を代位取得したものと解される。

五  よつて、控訴人が被控訴人に対して、三上の被つた前示損害の合計金二四六万一二三一円及び右損害金のうち別紙一覧表の療養費欄記載の各金額の損害金に対する前示不法行為の日の後である同表支払期日欄記載の各支払期日の翌日から右各支払済に至るまでの民法所定め年五分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求はすべて理由があるから、これを認容すべく、これを棄却した原判決は失当であるから民訴法第三八六条に則つてこれを取消すこととし、訴訟費用の負担につき同法第九六条、第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判宮 宮崎富哉 塩崎勤 村田達生)

別表〈省略〉

【参考】一審判決(札幌地裁 昭和五〇年(ワ)第三〇〇一号 昭和五〇年七月一八日判決)

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の申立〈省略〉

第二当事者双方の主張

一 請求原因

(一) 事故の発生

訴外三上昭政は、次の交通事故(以下本件事故という。)により傷害を被つた。

1 日時 昭和四六年三月一六日午後一一時四〇分ごろ

2 場所 滝川市栄町四三七番地先交差点(以下本件交差点という。)

3 加害車

(1) 小型貨物自動車(登録番号札五い五一-一九号、車という。)

右運転者 訴外平沢勝利

(2) 普通乗用自動車(登録番号札四る六三一八五号、車という。)

右運転車 訴外能戸武見

4 事故の態様

訴外三上を後部座席に乗車させたタクシー乙車が本件交差点に進入したところ、折から交差道路右方から進行してきた甲車がその前部を乙車側面部に衝突させた。

5 結果

訴外三上は、本件事故により広汎性脳挫傷、中枢性右片不全麻痒の傷害を負い、昭和四六年三月一七日から昭和四八年五月一六日まで砂川市立病院に入院し、同月一七日から同年一〇月三一日まで同病院に通院した。

(二) 責任原因

被告は、乙車を所有しこれを自己のために運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法第三条本文により、訴外三上に対し、本件事故による損害であるその療養費を支払う義務がある。

(三) 損害賠償請求権の弁済による代位

原告は、訴外三上の要した療養費(別紙一覧表〈省略〉のとおり、合計金二、四六一、二三一円)について、同表のとおり、これを防衛庁職員給与法第二二条、および、同法施行令第一七条の三、第一項に基づき、北海道社会保険診療報酬支払基金に支払つた。したがつて、原告は、同法第一条、国家公務員共済組合法第四八条第一項に基づき、訴外三上の被告に対する前記損害賠償請求権を弁済により代位取得した。

(四) 結論

よつて、原告は被告に対し、金二、四六一、二三一円、および右金員のうち別紙一覧表療養費欄記載の各金員につきその同表支払期日欄記載の各支払期日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による各金員の支払を求める。

二 請求原因に対する答弁

(一) 請求原因(一)の1ないし4の事実はすべて認め、同5.の事実中、訴外三上が砂川市立病院に通院した事実は知らない、その余の事実は認める。

(二) 同(二)の事実中被告が乙車を所有しこれを自己のため運行の用に供していたものであることは認め、その余は争う。

(三) 同(三)の事実は知らない。

三 抗弁(自賠法第三条但書の免責の主張)

本件事故は、後記のとおり訴外平沢の過失に基づいて発生したものであり、被告および訴外能戸は乙車の運行に関し注意を怠つたことはなく、また乙車に構造上の欠陥又は機能の障害はなかつた。

すなわち、訴外能戸は、本件交差点進入に際し、乙車と対面する信号機が黄点滅の信号を表示していたので、減速徐行し、左右の安全を確認の上進行したのであるが、他方、訴外平沢は、呼気一リツトルについて〇・五ミリグラムのアルコールを身体に保有しながら、約四〇キロメートル毎時の速度で甲車の運転を継続し、本件交差点にさしかかつたところ、前方の対面信号機が赤点滅の信号を表示しているのにこれに気付かず、漫然同速度で走行し右交差点に進入したため、本件事故を惹起したものである。したがつて、本件事故は訴外平沢の過失に基づくものであつて、訴外能戸は無過失である。仮に、乙車の走行がいまだ徐行と認められないとしても、訴外能戸には、赤点滅信号を無視して交差点に進入してくる車両のありうることまで予想した安全確認義務はない。

四 抗弁に対する答弁

争う。すなわち、本件交差点は、道交法上交通整理の行われていない交差点に該当するところ、右交差点は、滝川市の中心部にあつて附近は人家が密集しており、さらに本件事故当時歩道上に約一メートルの積雪があつたことなどからして、その見通しは十分ではなく、また甲車進行道路、および、乙車進行道路ともその有効幅員はいずれも約九メートルであつたことからして、訴外能戸は、本件交差点進入に際し、徐行して左右の安全を確認すべき注意義務があつたというべきである。訴外平沢に赤点滅信号無視の過失があつたとしても、訴外能戸の右過失の成否に影響はない。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一 請求原因(一)の1ないし4の事実はいずれも当事者間に争いがない。

同(一)5の事実中、訴外三上が昭和四八年五月一七日から同年一〇月三日まで砂川市立病院に通院した事実は、〈証拠省略〉により認められ(この反証はない)、その余の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二 請求原因二の事実中、被告が乙車を所有し、これを自己のため運行の用に供していたことは当事者間に争いがないので、以下、被告の抗弁について判断する。

〈証拠省略〉に、前示一の争いのない事実を総合すると、つぎの事実が認められる。

本件交差点は、国鉄滝川駅方面から滝川市本町方面へほぼ南北に通ずる車道幅員約一三・二〇メートル、歩道幅員約三・四五ないし四・二〇メートルの平担な舗道の道々滝川停車場線(本件事故時は積雪のため有効車道幅員約九・四メートル)と、砂川市方面から滝川市西町方面へほぼ東西に通ずる車道幅員約一六・一〇メートル、歩道幅員約五・七〇ないし六・五〇メートルの平担な舗装の市道(本件事故時は積雪のため有効車道幅員約九・〇メートルとなり、歩道上には約一メートルの高さの積雪があつた)とが交差しており、信号機が設置されている。本件事故時、いずれも深夜のため路面は凍結し、道々滝川停車場線上の信号機は黄点滅の信号を、交差する市道上の信号機は赤点滅の信号を表示し、右交差点附近における制限速度は、四〇キロメートル毎時とされていた。訴外能戸は、乙車を運転して国鉄滝川駅方面から滝川市本町方面へ向けて道々滝川停車場線を約四〇キロメートル毎時の速度で北進中、本件交差点における対面する信号機が黄点滅信号を表示しているのに気付いたので、これを約二〇キロメートル毎時に減速し、さらに、交差道路の信号機が赤点滅信号を表示しているのを見やりながら、本件交差点に接近し、その直前で、同交差点に進入した車輌の有無、ならびに、同交差点直前で一時停止のうえ発進しようとしている車両のないことを確認しつつ加速しながら本件交差点に進入したところ、交差道路東方(能戸の進行方向からみて右方)から本件交差点に進入してきた甲車を約一五メートル右前方に発見し、急制動措置をとりざま左に転把しようとしたが及ばず、交差点中心附近で甲車前部を乙車(自車)右側部に衝突され、同車右側部が大破した。他方、訴外平沢は、本件事故日の午後七時頃清酒二合位を飲酒していたが、用件があつて、同日午後九時半ごろ申車を運転し自宅から留萌市に向けて国道一二号線を進行していたが車内のヒーター等により、やや酔つた感じを抱きながらも走行を継続し、本件交差点手前で国道一二号線が右折しているのに気付かないまま滝川市西町方面に向けて前記市道を約四〇キロメートル毎時の速度で西進したばかりか、さらに、本件交差点の対面する信号機が赤点滅信号を表示しているのにこれを無視して右交差点に進入し、急制動等の避譲措置をとるいとまもなく、すでに交差点に進入していた乙車右側部に甲車前部を衝突させ滑走のうえ停車した。

以上の事実が認められ、右認定に抵触する〈証拠省略〉の各記載部分は採用せず、他にこれを覆えすに足る証拠はない。

以上の事実関係によれば、訴外能戸は、黄点滅信号にしたがい本件交差点進入するに際して減速し、交差点直前で一時停止し交差点に発進しようとしている車両等のないことを確認しながら進行しているとみられるから、同人の安全確認義務はすでに尽されたと解すべきである。けだし、対面する信号機が赤点滅信号を表示している場合には、車両等は一時停止しなりればならないから(道路交通法施行令第二条第一項参照)、訴外能戸としては、交差道路を本件交差点に接近してくる車両は対面する信号機の赤点滅信号に従い一時停止する等適切な行動に出るであろうことを期待して運転進行すれば足りると解すべきであり、酒の酔い等のため赤点滅信号を無視し、しかも凍結路上を四〇キロメートル毎時の速度で本件交差点に進入してくる車両のあり得ることまで予想して最徐行し、左右の安全を確認して走行すべき注意義務を課するのは相当でないからである。

とすれば、本件事故は、訴外平沢の重大な過失によつて発生したものと認められ、訴外能戸には前記のとおり何らの不注意が認められないばかりか、前示認定事実によれば被告の乙車の運行に関する注意懈怠もなく、このほか、乙車について構造上の欠陥又は機能の障害はないと認められるから、被告の抗弁は結局理由がある。

三 してみると、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく失当といわなければならない。よつて、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 稲垣喬)

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